暑さもまだやわらかく、朝の風が心地よく部屋を通り抜けていくこの季節。どこか気持ちにも余白が生まれて、「しまっていたものをもう一度見つめ直してみようか」という気分になります。

今回は、桐たんすのリメイクについてご紹介させてください。

ご相談いただいたのは、ご新築を機に「長年使ってきた桐たんすを、今の暮らしにも合うように活かしたい」というお客さま。この桐たんすは、奥さまがご結婚の際にご実家から持参されたもので、嫁入り道具のひとつだったそうです。

最初はスマートフォンの画像で拝見したのですが、その時点ではここまで上質なものだとは正直思っていませんでした。ですが、実際に店舗へお持ち込みいただいたときに、その美しさと丁寧なつくりに驚かされました。

▲リメイク前の上段部分

まず目を引いたのは、桐芯(きりしん)で作られていること。これは、見た目だけでなく、中の構造部分にも桐が使われているということになります。

桐材は調湿性に優れていて、着物や大切な衣類を守ってくれる素材。芯材まで桐で作られていることで、たんす全体がまるで呼吸をするように、湿度を自然に調整してくれるのです。

桐芯が使われているたんすは、非常に贅沢で、丁寧な仕事がされている証ともいえます。

さらによく見ると、表面には「焼き桐(やきぎり)」の仕上げが施されていました。これは、金ゴテと呼ばれる焼きごてで、木の表面を焼いて加工する伝統技法です。

深みのある風合いと、どこかあたたかみを感じる表情が特徴的で、しかも焼くことで防虫効果や耐久性も高まり、見た目だけでなく実用性も備わった仕上げです。昔ながらの職人の技が感じられ、今ではなかなか見られない、貴重なたんすでした。

たんすの上の部分は、そのままテレビ台としてリメイクすることに。桐芯が使われていたおかげで、補強の必要もなく、しっかりとした構造のまま活かすことができました。

床置きしやすいように脚を取り付け、重心を安定させると同時に、引き出しの出し入れもしやすくなりました。

テレビ台として新たに生まれ変わった姿は、空間にも自然となじみ、家具としての存在感も損なわれていません。

特徴的だった桐たんすの下段の扉部分には、花の模様があしらわれており、デザイン性はもちろん、ご家族の思い出も込められていました。

新築にあたり「どこかにこのたんすの一部を残したい」というご希望を伺い、和室の壁面収納の下部に、飾りとしてその扉を設置することにしました。

扉の幅を57cmにカットし、壁面収納の下に取り付けた姿は、まるで一枚の絵のよう。

もともとのデザインが美しく、そこに長年の想い出が重なって、空間の中に静かに、けれどしっかりと存在感を放っていました。来客があったときにも、きっと話題になることでしょう。

このように、思い出の家具を新しいかたちで再び暮らしの中に迎えることは、とても素敵なことだと思います。使い込んだ木の質感や、家族の記憶が宿る家具には、新しいものにはない温もりがあります。

たんすとしての役割を終えても、その美しさとぬくもりは、かたちを変えて生き続けるのです。そんな家具との向き合い方を、私たちはこれからも大切にしていきたいと思っています。

 

※シュクレ浜松の情報は、インスタグラムとフェイスブックでも配信しています。
【シュクレ浜松 Instagram】

【シュクレ浜松 FACEBOOK】