いよいよ夏本番。毎日じりじりとした陽射しが続きますが、皆さまいかがお過ごしでしょうか。
今回は、文机(ふみづくえ)の修理事例をご紹介します。
文机と聞くとあまり馴染みがないかもしれませんが、昔ながらの背の低い机です。今ではあまり見かけない高さで、既製品で探してもなかなか見つからないと思います。
今回お持ちいただいた文机は、奥さまの嫁ぎ先のおばあさまが使われていたもので、詳しい使い道までは分からないものの「修理して、また使えるようにできたら」との思いからご依頼いただきました。
まずは状態を拝見しなければ、ということで、実物を持参いただきました。一見すると古びた佇まいではありましたが、すべて無垢材でつくられていて、おそらくアガチス材かと思われました。
決して高級な素材というわけではありませんが、時を経てなおしっかりとした重みと存在感がありました。
ただ、ご主人としては正直「修理しなくてもいいのでは?」というお気持ちだったそうです。
確かに、表面は傷やシミが多く、古びた印象がありましたし、全体的に使いこまれた様子が見て取れました。ですが、奥さまの思いは明確で、どうしてもこの机をきれいにして、また使いたいとおっしゃっていました。
しかし、すべてを新品のようにピカピカに仕上げるとなると、それなりに時間も費用もかかります。
そこで今回は、無垢材ならではの修理方法である「表面を薄く削る」という方法をとり、木の本来の質感を生かしながら整えていくことにしました。
仕上がった文机はこちら。
特に傷みが激しかった天板は、表面を丁寧に削り直すことで、驚くほどきれいに。
塗装にはクリア仕上げを採用し、木材そのものの質感と色合いを引き立てる、自然な仕上がりを目指しました。
引き出しも丁寧に磨き上げ、スムーズに開け閉めできるようになり、古い家具特有の引っかかりも感じません。
細かな部分にも手をかけることで、見た目だけでなく使い心地もぐっとよくなります。
側面や背面については大きな傷みが少なかったため削ることはせず、元の表情を残しながら整えています。
仕上がった文机をご覧になったご主人も、最初の反応とは打って変わって「きれいになってよかったです」と笑顔で言ってくださいました。誰かの思いを大切にすることで、その価値が再び光る。そんな瞬間を一緒に味わわせていただきました。
家具というのは、誰かに「いいね」と言ってもらえることで、持ち主の気持ちが少しずつ変わっていくことがあります。
たとえば、「古そうだけど、いいものだね」とか、「味があって素敵」とか。
そんなふうに誰かの目に留まることで、「これからも大事にしよう」と思えるものになるのです。
今回の文机も、これから先、きっとそんなふうにして愛着を深めながら、長く使っていただけるのではないかと思っています。
何十年も前の家具が、またこれからの時間を共に歩んでいく。そのお手伝いができたことを、心から嬉しく思います。
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