まだ暑さの残る日々が続いていますが、皆さまいかがお過ごしでしょうか。

今回ご紹介するのは、小さな引き出しの修理についてです。こちらの小引き出し、どれくらい前に作られたものかはわかりませんが、かなりの年月を経てきたであろうことは、その風合いからも伝わってきます。

材は堅牢なナラ材。かたぎの良い材料を用いて丁寧につくられており、今ではなかなか見られない質の高さを感じました。

この小引き出しには、ちょっとした「秘密」が隠されています。一番下の引き出しが、実は鍵の役割を担っており、それを引き出すことで上段の引き出しが初めて動く仕組みになっているのです。

下段を閉じたままでは他の引き出しが開かないため、一見すると壊れているように見えてしまいます。

いわば、小さなからくり箱のようなものです。外から見ただけでは仕組みはわからず、実際に手を動かしてみて初めて「ああ、そういうことか」と気づくようになっています。

昔の職人は、ただ収納家具をつくるだけでなく、遊び心や防犯の工夫を組み込んでいたのでしょう。大切なものを人目に触れさせないため、あるいはちょっとした楽しみのために。

シンプルですが巧妙な仕掛けに、思わずうなってしまいました。

今回のお客さまも、その仕組みをご存じなかったため、最初は本体と引き出しをバラバラにしてお持ちになりました。もう動かなくなってしまったと思われたようです。

しかし実際には壊れているのではなく、このからくりが働いていたというわけです。事情をお伝えすると、お客さまも驚かれ、まるで新しい発見をしたかのように目を輝かせていらっしゃいました。

仕上がった小引き出しがこちら。

古い木の温もりを残しつつ、落ち着いた輝きが戻りました。

修理にあたって最も気を遣ったのは、取っ手部分でした。鉄製の小さな金具が釘でしっかりと打ち込まれており、容易には外れません。

このままでは塗装を施す際に支障が出るのですが、無理に外そうとすれば金具に傷がつき、取り返しがつかなくなります。もし外れなければ、そのまま金具を残した状態で塗装を進めるしかありません。

古い家具は一つひとつが違う顔を持っており、作業の進め方も毎回試行錯誤が必要です。

幸い、今回は金具を損なうことなく作業を進めることができました。塗装を施したことで木肌はしっとりと落ち着き、仕上がりもとても良いものになりました。

そして何より、からくりの仕組みもそのまま残すことができました。

 

長い年月を経た家具には、その時代ごとの職人の工夫や想いが込められています。単に古いというだけではなく、そこに宿る物語や仕掛けが、今を生きる私たちの暮らしを豊かにしてくれるのだと思います。

修理を通じて、そうした魅力を改めて感じていただけることが、私たちにとって何よりの喜びです。

これからも、お客さまが大切にされてきた家具を少しでも永く使っていただけるよう、心を込めてお手伝いしていきたいと思います。

 

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