そろそろ年末の足音が聞こえてくる時期になりましたね。家族が集い、思い出を語り継ぐひとときが待ち遠しくなる季節です。

今回ご紹介するのは、長野県にルーツを持つお客さまからご依頼いただいた、二つの家具の修理事例です。どちらも、ひいお祖父さまの時代から受け継がれてきた大切な品です。

一点目は、明治期につくられたと見られる、けやきの座卓です。正方形の一枚板という特別な形で、現在では同じものをつくることは難しいほど、立派な木材と技が注がれています。

蚕種製造業で成功し、「中村屋」という屋号を持たれていたご先祖さまの名が、今も天板の裏に残されていました。

しかし、百年以上の時間とともに木は縮み、天板部分に隙間が生じていました。

いくつか方法を検討する中で、「天板を一度くり抜き、木を足して戻す」というのがもっとも手早く確実な手段でした。しかしそれでは、修正したことがどうしても表面に現れ、長く受け継がれてきた佇まいを損ねてしまいます。

そこで脚をいったんすべて取り外し、外からは見えない内側の部分に新たな木材を足しながら、再びしっかり組み直す方法を選びました。

上の画像は修理後のお写真ですが、裏側からそっと覗くと、足した木がしっかりと支えている様子がわかります。

さらに天板には、長いあいだ家族の暮らしと寄り添ってきた大きなキズがありました。

削りすぎれば、本来の厚みや風合いまで失われてしまいます。

修理ではできる範囲で丁寧に削り整え、自然な表情を残しつつ落ち着いた仕上がりにしました。

触れた時に柔らかく馴染むような、そんな質感になったのではないかと思います。

つづいては、濃い焦げ茶の塗装が印象的な桐箪笥です。

当時としては珍しい色味で、塗装の深みと意匠からも、特別にあつらえられたものだと感じられました。

ただ、経年によって傷やガタつきが目立ち、縁の鉄の金具も取れかけていました。

こちらは全体を塗り直し、揺らぎのあった部分をしっかりと直しています。

金具は当時のものをそのまま活かしました。新しいものに替えることもできますが、長い時間をまとった質感は、この家具にしか宿らない大切な一部です。

手を加えたことで木肌が穏やかに艶を帯び、素材の良さが改めて引き立ちました。

家具は、日々の生活の中で家族と時間を重ね、姿を変えていきます。その変化は、ただの劣化ではなく、その家だけの物語でもあります。

思いが込められた品を未来へと受け継いでいくお手伝いができたことを、心から嬉しく思います。これからも暮らしに寄り添い、丁寧に修理を続けてまいります。

 

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