先月のことですが、大変嬉しいニュースがありました。

以前こちらブログでご紹介させていただいた「時代家具の修復(リストア)~家と家族の歴史を引き継ぐ~」、ご記憶の方もいらっしゃるでしょうか。

こちらの画像でお見覚えの方もいらっしゃるかもしれません。

時代家具の修復(リストア)〜家と家族の歴史を引き継ぐ〜 1
時代家具の修復(リストア)〜家と家族の歴史を引き継ぐ〜 2

サン工房さまが施工されたこちらの住宅が「静岡県住まいの文化賞の優秀賞」に選ばれとのこと。

住まいの文化賞とは、自然・風土・伝統文化など地域の特性を活かした住宅を表彰する制度とのことです。

現地審査で審査員の方が当店の時代家具の再生・修復をとてもほめていただいとお聞きしました。
このような機会をいただきましたお客様のY様、サン工房様に改めてお礼を申し上げます。

【参考:サン工房さま】
https://www.sankoubou.com/archives/8884

 

さて今回ご紹介するのは、上記の時代家具の修理修復の当店のブログを読んだお客様からのご相談で実地された事例です。

江戸時代には栄えた歴史ある街道沿いに先祖代々お住まいのY様。
明治初期に建てられた町家スタイルのご自宅をリフォームされるということで、長年ご一家でお使いだった古い家具を修理修復するのは可能でしょうか?とのご相談を受けました。

「ネットで検索しても新しい家具を販売しているお店は見つかるのですが、古い家具の修理や修復をされているところが近辺では見つからなくって…」と。 そこに最初にご紹介した時代家具の修復事例を見つけられてご相談という流れだったそうです。
そういう過程もあって、もっとたくさんの方にこういう事例を知ってほしいので、是非いろいろな方にご紹介してくださいとありがたいお言葉も頂戴いたしました。

まずお客様からのご希望は、長年使ってきたその雰囲気を残したままで、生活するにあたり不具合のある部分を直してほしいということでした。

何分リフォーム開始が迫っていた時期でのご相談でしたので、数ある古い家具の中から階段箪笥と箪笥、そして潜り戸の3点を修理修復させていただくこととなりました。

まず階段箪笥からご紹介していきますね。

実際に2階スペースへの階段としても使用されていて、手すりがついているデザインです。

扉の格子は左端の格子の一本(画像の上扉のその部分の格子はなくなってしまって跡が見えるだけです)は上下に動き、扉の開閉に使える仕組みになっていました。


長年の使用による傷、引出し取っ手の不具合、虫喰い、割れの状態などが見られます。

そして、手すりを確認していたら、なんとこの手すり、階段の橋に木でできた突起のようなものがついていて、そこに手すりを組み込んで付けたり取り外しができるよう構造になっていてびっくりしました。

今の大量生産の家具と違って、材料やデザイン、その時の状況や職人の腕や好みなどが取り入れられ、1つずつ違うというのが古い時代の家具の面白さです。

では、修理修復を施したAfterの姿をご紹介しますね。

全体を綺麗に掃除して塗装の直し、木の割れなどを塞ぎ、紛失していた格子も新しく作って取り付けました。
格子の上下で扉を開閉していたのをやめて扉の枠部分を少し削って手がかけられるようにして扉の開閉ができるようにしました。

↓扉の内側から引出しを引き出せるように、引出しの側面を少し削り、そこに手をかけて引出しが引き出せるようにしました。

木が削れていたところ、また隙間があるところなど、新しい木を埋め込んで修復しました。

引出しの取っ手も綺麗に塗装して揃えました。


風合いはそのままに、日常に使える形として蘇りました!


そして次にご紹介するのがこちらの箪笥。

上下に別れていて、縦格子の扉収納と14杯の引出し収納からなる箪笥です。

引出しの取っ手は重いものを引っ張り続けるので取れてしまったり壊れやすい箇所です。
似たような取っ手を付けたり、この画像ですと太い針金で代用してお使いになられていたようです。

よく見ると、天板が割れてめくれてしまって隙間ができているようです。

こちらも風合いはそのままに、不具合の修理を施して全体を綺麗に整えました。
Afterの姿はこちら。

引出しの取っ手も揃え、出し入れがスムーズになるように調整を施しました。

↑引出し周りの枠にところどころ薄い色があるのは、削れてしまったところに新しい木を埋め込んで修復した箇所です。
新しい木なので色目が薄いですが、時間が経つうちに馴染んでいきます。

そして最後にご紹介するのがこちら。

ぱっと見て分かる方はどのぐらいいらっしゃるでしょうか?(実はかくいうワタクシ、ぱっと見た時なにこれ?状態でした…)

こちら「潜り戸(くぐりど)」です。上の画像は内側から見たものです。

「潜り戸」と聞いて、すぐ具体的に「ああ、あれね。」と思い浮かぶ方はもしかして時代劇がお好きな方かもしれません。
最近の家屋では見かけるこがほぼないのではと思います。

こちらの画像は表側から見て板扉と障子の扉の2枚の扉と扉を開けた時のものです。

今回リフォーム後にもお使いになりたいということで、長年の使用でダメージのある木枠部分の修理、そして動作に影響する滑車の交換、そして障子の張替などの修理修復を施しました。

締め閂の動作確認。

板戸の引き扉の動作の確認。


年月を経て歪みや虫喰いなどが生じています。滑車部分も錆びついていました。

これも全体を綺麗にして不具合を修理し調整しました。

実際に家屋に取り付けられた修復後の潜り戸の様子がこちら。

新しい格子の玄関扉の内側に取り付けられました。


扉は建具の分野ですので、実際に家屋本体へ取り付けてしっかり稼働するか少々心配ではありましたが、無事に取り付けられて動く様子を見て嬉しくなりました!

家の内側から見るとこんな感じに。

リフォームの完成間近の時期に納品し、実際の設置は工務店さんの方がされたので、すべてのリフォームが終了した時点で拝見しに伺い、お客様とお話をさせていただきました。

和室へ入ると階段箪笥と箪笥が隣り合わせに設置されています。

まさにお部屋の顔というべき重厚な存在感!

周りを見渡すと、リフォーム前でも使われていた組子や格子が素敵な建具や衝立が雰囲気よく配置されています。
(ちなみにこちらの建具類は当店が手掛けたものではありません)

私達もお伺いして、この空間にいるとなぜか心が落ち着きお話がはずむはずむ~
私達の身体には未だに和の文化がしっかりと根付いているのだなとつくづく思いました。
Y様には小さいお子さまがいらっしゃるのですが、この小さいお子さもこのお部屋が大好きで日頃の遊び場にもなっているそうです。

ちょうど春には窓からお祭りの行列が見られる特等席になるそうです。

何分明治時代の建物のリフォームですので、現在の建築基準に合わせ、さらにこれまでに使っていた建具や家具を組み合わせてと、そのプランニングには試行錯誤されたとのこと、施主さんとそれを施工された建築屋さんとの本当に見事なコラボだと思います。
歴史あるご家族の思い出のある家具を手掛けることができた機会を与えていただいたY様に心よりお礼申し上げます。

 

最近よくニュースなどでSDGs(持続可能な開発目標)という言葉を耳にされた方も多いかと思います。
17の目標があるのですが、その12番目に「つくる責任 つかう責任」というのがあります。

私達も長い年月を共にしていただけるような家具の販売、そして修理修復やリメイクなどのサポートもこれからも引き続き頑張っていきたいなと思っております。

よくお客様から「うちにもあったけど捨てちゃった。。。残念」というお話をお聞きします。また改築などで取り壊し寸前でのご相談というのもあります。また現在の生活スタイルに合わないということで納戸にしまいっぱなしで状態が悪くなってしまった…という家具にも出会うことがあります。

状態が悪くなる前に手を入れて修理修復をしたり、また現在の生活スタイルに合わせたリメイクなどを施せば今後もお使いいただくことができます。

とりわけ今回ご紹介したような古い家具は、個々の状態に合わせての手作業での修理修復となりますので少々時間と費用はかかってしまいますが、思い入れのある家具、質の良い家具は捨ててしまったらおしまいですので、是非一度ご検討いただけたら嬉しいです。